当院の総合リハビリテーション室
について
総合リハビリテーション室では様々な施設基準(脳血管疾患等リハビリテーションⅠ・廃用症候群リハビリテーションⅠ・運動器リハビリテーションⅠ・心大血管疾患リハビリテーションⅠ・呼吸器リハビリテーションⅠ)の承認を受けており、多様な病態の患者様に対して、幅広く、かつ質の高いリハビリテーションの提供を目指しております。
また専門診療科目として、血液内科、循環器内科を有し、また人工透析治療も行っており、このような内部疾患の重症患者様においてもリハビリテーションを提供することが可能となっております。
また、リハビリテーション専門職(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)として、30名以上のスタッフを配置し、医療部門では回復期リハビリテーション病棟を中心に、一般病棟、地域包括ケア病棟、障害者病棟、療養病棟に、介護部門では訪問リハビリテーションにそれぞれ従事しており、患者様の急性期治療から在宅生活へつなげるための、地域に根ざしたリハビリテーション治療を提供します。
理学療法(PT:Physical Therapy)
理学療法とは、病気やけが、高齢、障がいなどによって運動機能が低下した状態である人々に対し、運動機能の維持・改善を目的に、運動療法・温熱療法・電気・水・光線などの物理的手段を用いて行われる治療法です。
作業療法(OT:Occupational Therapy)
病気・障がいを持った方々の生き方・価値観・思いを大事にしながら、再び一人ひとりがその人らしく生活できるように、支援していきます。
病気やけがで身体に障がいをもった方に対して、身体やこころの基本的な機能の改善を援助するとともに、食事やトイレなどの日常生活の練習や退院後の住環境やライフスタイルに合わせた生活能力の改善、その方の生活に合わせて家事の練習や仕事への復帰をめざした支援を行います。
また、自助具の作製や、家族指導・自宅環境の工夫の提案・福祉用具の選択など対象者を取り巻く生活環境の支援も行います。
例えば・・・
- 食事、トイレ、着替え、入浴など日常生活の練習
- 料理をつくるなどの家事・外出・買い物などの練習
- 腕や指を動かしたり、力をつける練習
- 高次脳機能障害(見当識・記憶・注意・失行など)に対するリハビリテーション
- 福祉用具などの選択アドバイスや福祉用具を使った動作練習
- 持ちやすくしたスプーンや靴下をはく道具などの作製
言語聴覚療法
(ST:Speech Therapy)
言語聴覚療法とは、コミュニケーションや食べることに障がいを持つ方々の言語や聴覚、摂食・嚥下機能の獲得・回復・維持を支援し、機能的な側面と同時に「生活の質(QOL)」を高めるために行われるリハビリテーションの一領域です。
温水プールによる
リハビリテーション
当院には、リハビリテーション施設内に温泉プールを設置しています。
当設備は水温39℃程度(湧出泉温41.2℃、湧出量691ℓ/分)となっており、温泉内で運動を行うのに適した温度となっています。
温泉治療の効果
- (1)水温による温熱効果
- (2)静水圧
- (3)浮力
- (4)水の抵抗
- (5)化学物質(炭酸など)の作用
温熱効果は水溶物質(温泉であれば炭酸や硫化水素など)との相乗効果により、末梢循環改善とそれによる代謝改善、軟部組織の伸展性を高め、疼痛緩和や筋緊張調整効果をもたらします。
当院の泉質
単純温泉(低張性・弱アルカリ性温泉)
温泉の効能
神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、病後回復期、疲労回復、健康増進
温泉の身体への影響
温泉とは温水と溶存化学物質からなっており、温泉の効果には物理的効果(温熱、浮力、抵抗、静水圧など)、化学的効果、刺激に対する生体反応効果、環境効果(非特異的変調作用)などがあります。
温水でも物理的効果はありますが化学物質が溶存している温泉では熱の吸収が早く、温まりやすく冷めにくく末梢循環促進作用があり、保温効果が続きます(熱伝導性の違いに拠ると考えられています)。
温泉または温水の物理的作用
- 1)浮力 :
臍 (腰)まで水中につかると体重の約 40~50%の免荷が得られます(軽くなる)。剣状突起部(胸)までつかると70%の免荷が得られます。これを利用して水中での歩行訓練を容易に行うことが出来ます。 - 2)静水圧 :
水圧により心臓への還流血流が増加し心拍出量が増加し末梢血流も増加します。心不全の患者様では心臓への負荷を少なくするため浅い入浴、浅い水中歩行とします。 - 3)抵抗:
水の粘弾性により水中での運動では負荷がかかるため、筋力増強、関節可動域の改善などの効果を期待できます。また水中では抵抗のためバランスがとりやすく体が安定します。 - 4)温熱作用:
・末梢血管拡張による局所血流の増加により全身への酸素供給増加、栄養供給増加、乳酸や発痛物質の排泄増加(血行改善、新陳代謝の促進)が起こります。
・コラーゲン線維の柔軟化により筋腱軟部組織が柔軟化し、筋関節拘縮改善効果が得られます。 - ・鎮痛効果
皮膚温の上昇とともに C 知覚神経線維の疼痛閾値が上昇し疼痛緩和が得られます。温熱により大脳辺縁系におけるドパミンーシステムの変化が生じ脳内オピオイドの増加が起こり鎮痛作用が増強する可能性も考えられます。 - ・痙縮減弱作用
γ遠心線維の活動性低下により筋紡錘の感受性が低くなりγ求心線維であるⅠa、Ⅱ線維の発火を減少させ最終的にα線維の発火を抑制すると考えられています。 - ・温熱による蛋白質、遺伝子発現
温熱により誘導される熱ショックタンパク質(HSP)は生体修復機構の増強、全身の免疫活性作用に関係します。温熱は一酸化窒素(NO)を介して血管内皮前駆細胞を動員し血管を新生させます。温泉療養により IL-6 が低下することから温泉療法が炎症反応の進行を遅延させる可能性が示唆されています。
ロコモティブシンドロームに対する温泉リハビリテーション
(温泉プール歩行)
介護が必要になる原因として脳卒中や認知症が知られていますが、約5人に1人は関節、脊椎の病気や転倒による骨折などの運動器の病気により介護が必要になります。
このため日本整形外科学会はLocomotive syndrome (Locomo)と呼ぶ新たな運動器症候群を提唱しています。その3大原因は骨粗鬆症による骨折、変形性膝関節症、腰部脊柱管狭窄症となります。骨、関節、筋肉などの機能が衰えることにより生活の自立が困難になり寝たきりになることもあります。そこで運動器の機能を維持して Locomo にならないためには運動器に適度な負荷をかけることが必要となります。その負荷をかけるトレーニングを Locomotion training (ロコトレ)と言います。一般的には開眼片脚立ち、スクワットを基本として、外出可能なレベルではウォーキング、ジョギング、水中運動、太極拳などが勧められています。
ロコモが重症のご高齢の方ではウォーキングやジョギングのような運動は変形性膝関節症が高度となればストレス過剰になり関節痛をかえって増強することにもなりかねません。このような中高年の方では水中歩行が勧められます。
水中歩行や水中運動だけでもロコトレとして有効となりますが、温泉プールの運動浴は水の物理的特性により関節にかかる荷重負荷が軽減した状態で筋力を改善することが出来ると同時に、温熱効果により関節周囲の靱帯が柔軟になり痛みが軽減した状態で運動ができるといった利点があります。
以上のように、温泉プールでの水中運動はロコトレの中でも有効性が示されています。また肥満の軽減(メタボリック症候群に対する効果)、心肺機能の向上、体幹・上下肢の筋力および柔軟性の向上が得られることが報告されています。